小川忠太郎先生剣道話(24)~「どうして突けないか? 考えてみろ」~
技に迷わなくなればいい。そういうものをつかめばいい。技に迷わない。 内原で加藤先生(<注>加藤完治。小川先生の法定の形の師)が学生と稽古した時、上段にとってやっていると、学生は近くまで入ってきても、その後突けない。加藤先生は上段にとっているから、手を出せば届くんだよな。だのに突けない。 加藤完治という先生は大教育者だね。僕にはああいうまねは出来ないんだよ。すぐ教えちゃうんだよ。教えちゃうから、分かったような分からないようなことになっちゃうんだね。 あの人は大教育者だ。突けるわけだろ。「どうして突けないか考えてみろ」って言うんだ。 これはいい教えだね。 その学生は17、8歳だったが、なかなかしっかりした人だったな。いろいろ考えて、「そこまで行って突けないのは、気合だ」ということに気が付いた。「気合で負けてるから手が出ない」という所にね。 それに気が付いてから良くなったよ。そういうものなんだ。 普通は、自分で持っているものが出ずに「ああでもない、こうでもない」と脇へ行っちゃうんだな。(中略) 「気合だ」と説明されて、「ああそうか」じゃ駄目だ。自分で気が付けば「会得」。 なぜ突けないのか?そこを考えなきゃ駄目だ。何本やっても突けない。「同じ人間で、同じ条件で、1本や2本ならともかく、全部打てないというのはどういう訳だろうな?」と考える。それが分かれば、いっぺんだ。 それを分かる方法は「真剣」ということだね。ほかに方法はありはしない。 昔の人は、16、7歳で親の仇を打った。宮本武蔵にどうすればいいか聞きに来る。その時教えたことは、たった一言だ。技は一つだけだ。それは「真剣」だ。 もう一つ暗示を与えて、「仇討ちの場所に行って、下に蟻がおったら勝てると思え」と。 夏に蟻のいない所はありはしない。それで、蟻がいたから自信を持った。相手は相当腕のある者でも、斬ることが出来た。 そういうものなんだ。間合に入って打てないのは、それだよ。 そういう所を考えて稽古をすると、3年かかる所が1年だ。速い。そういうものだから、しっかりやって。 昭和55年4月 『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より タイトル、抜粋、(注)… 栗山令道
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