小川忠太郎先生剣道話(16)~「両鏡」~
(前回より続く)
これと並んで、もう一つの秘歌がある。今日はその話をしよう。
【立ち向こう その目をすぐにゆるむまじ これぞまことの水月の剣】
「目」だ。剣道は相手と対峙する。相手の目を見て、目を緩めるな。これが大事なんだ。
うっかりすると目を緩める。それは心の緩みが目に出るんだ。一本打つ。すると「ああ、いいなぁ」となる。
一本打ったら、きびすを返し次の技へ。打った後もそうだが、打つ前もそう。
これが「ズーッ」と
一貫する。この修行。
形を稽古する時に目を緩めない。最初の礼の時も相手の目を見る。終わった時も目を見る。後はこう礼をする。これが武道。
武道というものは浮いたものじゃない。命のやり取り、息の根の止め合い。だから、ちょっとでも緩みが出たら「ズバッ」とやられる。その緩みは目に出る。
【立ち向こう その目をすぐにゆるむまじ これぞまことの水月の剣】。お月様が浮いてね。これだって三昧だよ。相手と対峙して「ジーッ」と。これも会得しなくちゃ駄目。禅では、これを「両鏡」と言ってる。
そういうことを道場内で真剣に修行すると、人間形成が出来る。
ごまかしは目に出る。【その目をすぐにゆるむまじ これぞまことの水月の剣】。二枚の鏡を合わせたようなもの。「ズーッ」と。
こういうことを念頭に置いて稽古していく。そうすると、剣道は難しいけれども、それがみんな自分にあるんだから、だんだん雲が取れてきて、楽しみになる。
この二つの歌は大事だから、続いて「目」の話をしておく。「目」を緩めない。そういう修行をする。
例えば、柳生流の形では、後へ退る場合、足が羽目板にくっついちゃってもいけない。そうかといって、一尺も離れてはいけない。一寸ぐらい離しておく。これも「目」の修行。
剣道では、「目」は目線。宮本武蔵は、「真っ直ぐ見ていて、両方を見る」と言っている。やっぱり真剣勝負をやってるから、ポイントを知っている。
これも普段の修行だ。
今日は、「目」の話をしました。
昭和55年3月
『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より
タイトル・抜粋 令道
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