小川忠太郎先生剣道話(1)~人間の本当のものを出すために~
このあいだ聞いたんだが、栗山君(令道)は1月(昭和54年1月)に8時間の「立ち切り」(防具を付けた竹刀の真剣勝負で、次々に短時間交代で掛かって来る多勢に休みなく立ち向かう)をやったってぇ?
よかったなぁ。
お昼飯抜きで8時間というのは相当なもんだ。
それをいっぺんやっとくとな、あなたの一生に、もうそんな苦しいことはないよ。(微笑)
いわゆる難行苦行という事じゃいけないんだな。
難行苦行が目的だと人間が堕落するよ。今でもあるんだね。山へこもってね。難行苦行している連中は、何か得られると思っている。しかし、結論は堕落しちゃう。
だから目的にしちゃいけないんだ。
山岡先生(山岡鉄舟。幕末-明治に活躍した剣、禅、書の道人。小川先生は山岡鉄舟を目標に修行を積まれた)の一週間の立ち切りは難行苦行じゃないんだ。だから山岡先生がおって、これが初めて生きるわけだよ。
要するに、人間の本当のものを出すための方便だからなぁ。だからそこへ行けばいいわけだ。
山岡先生は3日目の午後に、見ておって、香川先生が上段に構えたところで「それでよろしい!」と言って、それでおしまい。それでいいんだよ。
打ったわけじゃないんだ。剣道はそういうもんだ。
上段に構えただけで「もうそれでよし!」。そういうもんなんだ。
しかし、その前が凄いね。もう、目が見えなくなったってな。前が真っ暗になって。
ああ、これで死ぬんだなと思ったらしいね。
こっちからもう技が出ないっていうんだ。
相手が来るのを受けてただけなんだろう。精根尽き果てたところだ。
(中略)
難行苦行じゃない。そういう修行をしないと本物が出ないという山岡先生の見方なんだね。
昔は真剣勝負だから本気になれるよね。今の道具を着けた稽古じゃだめだっていうんだ。それで、そういう方法を編み出したわけだな。
(『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より)
令道 記
※『小川忠太郎先生剣道話』は、宏道会剣道場において稽古後にいただいたご教示、その後、先生を囲んでいただいたお茶・お食事の席でいただいたお話をテープに録り、文章にしたものです。
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