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執筆者の写真宏道会案内人

《 呑みにゆく 》    徳利山

心耕、令道 二人が会えば 心うららか    ノドが鳴る 急ぐ月路に 靴が鳴る                          モノレールを降りて2分ほどか、その目的地は暗闇にともされた灯のように浮かび上がった。 都会の乗り物と思っていたモノレールで着いた駅前の道が、こんなにも暗く商店やビルのない風景が続くとは…。 今から3年半ほど前の12月、本八幡で、私の整体を受け終わって着替える小川心耕さんは、すでに気をはやらせていた。 「もう、4時過ぎだよ~」 その一声に私は、 (いや、まだ4時過ぎだ。このままでは1時間前に着いてしまう) と内心は思いつつ、 「ハイッ!」 と軽快に合わせる。 駅に向かう80翁が私の先をゆく。その姿勢は、「思い」が足の先をゆくかのように、上体が前に傾斜して、歩くというより半ば走りに近い。 電車に乗り込むや、心耕さんはそれまで身体中で表現していた思いを、過ぎゆく本八幡の街並を見おろしながら満面の笑みで言葉にした。 「勇んで飲みに出かけるっていうのはいいもんだな!」 「まったく。しかもわざわざ遠方まで!」 「まったく、まったく。しかも最高の相手と二人で!!」 「マッタク!!」 目指すは千葉駅からモノレールで10駅ほど行った「みつわ台駅 」。そこから徒歩3分ほどに、目的の日本酒バル「わらべ」はある。 快速のエアポート成田を使って都賀まで行き、そこからモノレールに乗れば、みつわ台まで一駅と速い。 日本では今、ワインバルに続き、日本酒バルが増えてきている。しかし、みつわ台の「わらべ」は、その辺のバルとはいささか違うことが行く前から想像された。 なんでも、マスターは大きな酒屋のオーナーで、「わらべ」はその酒屋の隣りの建物の2階にある。 なんとここでしか飲めないものも数多く含め、日本酒100種類が、男性2000円、女性1500円で飲み放題(現在は改訂)。時間は2時間半とタップリ。 しかも酒肴の持ち込み自由。ハシ、コップ、さかづき、皿、調味料、冷水は自由に使える。燗もできる。 木をふんだんに使った和風のインテリアの中で座って飲める。

さて、6時からの予定が5時に着いてしまった2人は、隣りの酒屋・シマヤで時間を潰すことになった。 そこで見たものは、目を疑うほどの店内の広さ、品数の多さであった。通路の多さ、部屋の多さに迷うほどの酒屋なんて、80翁も私も前代未聞だった。 その店内には、ひっきりなしにヤマト運輸が出入りしているのを見て、店の広さを全国規模と知る。 50分の生殺しに耐え、「ますます呑みたくなった!」(心耕さん)2人が予約10分前に「わらべ」へと階段を上がった。 冷蔵庫で構える一升瓶100種類。純米酒、純米吟醸・大吟醸酒がほとんどだ。 それを2時間半自由にできる。 「ウマイ!」 「これもウマイ!」 「これまたイケル!」 私が作ってきた根野菜や薩摩揚などの煮物や砂肝の酢醤油漬けなどを肴につまみながら、いったい何度2人で「ウマイ!」と言ったことだろう。


広く、落ち着く店内も長く二人占めが続いた。 いつもの、心耕さんのつぶやきが始まる。 「令道。僕はあなたと飲む酒が一番ウマイ!」 「私も!」 「これが幸せ…これが幸せ…これ以上のものはない。」 「また来るぞ~」 「また来ましょう!」 トイレに掛けられた山頭火の 詩と絵が沁みた。 「酒がうますぎる山の宿にいる」 また行こう、二人旅 山なら 空気と酒がうますぎる あの清里の別荘小川山荘 海なら 潮風と夕陽が迫る 南房総のあの宿 心耕さんが大好きだった 落陽の 水平線から足下まで 光りの道迫る あの海

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