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命懸けの所では「ゆったり」と(下)~小川忠太郎先生剣道話(67)~

僕が歳をとっても忙しいのはね、国士舘に勤めていた時には国士舘以外にはいかなかった。そこで全力を上げた。 45歳の時、終戦で剣道は禁止になった。それまで、29歳から16年間国士舘で剣道を教えた。その時教えたものが、もう70歳を越えていますよ。若いのでも50歳を越えている。 そういう人達が、いま私を引っ張り回している。

つまり、当時全力でやった「一本」が種で、いま忙しくなっている。面白いでしょ。「いいからかん」にやっていたら、今こんなことはない。 世の中面白いものだと思ってね。

今日もこれから千葉へ行くが、これも当時の教え子が、会社の新入社員に話してくれということだ。 茂原の道場を借りてやるんだが、座禅を組んだりして、私が話をすることになっている。 今度は新入社員だが、2月には会社の部長のために講演したよ。50歳を過ぎた人達にね。来月は課長クラスなんですよ。会社も違うけどね。

国士舘がそういうふうに、今につながっている。だから、「一本」だ。中学出てからの4年間だから、若くて一番感ずる時代に私に教わったわけだ。それが縁になっている。

剣道から割り出して話をすると、みんな聞いてくれる。喜んでいるって言ってたよ、部長さんがな。 部長くらいになれば、社会の経験を持っている。剣道は、命懸けから出ているから分かる。

「命懸けだから、楽にしないと相手に勝てない」と話してやる。命懸けの時に肩に力が入るようじゃダメだ。緊張しちゃダメなんだ。 命懸けの所では「ゆったり」しなくちゃいけない。肩の力を「スッ」と抜く。その時全力が出る。50歳くらいになると、それが分かる。

剣道では、『猫の妙術』という書物があるから、それを例にとって、「眠り猫」の話をした。 本を読んで言うんじゃないから、実際に自分がやってみて言うんだから、相手によく分かるんですね。

みんな(目の前の宏道会会員)剣道をやっているが、ある程度まで行けば、あとは肩の力を抜くことだけだよ。「ズーッ」と。 抜こうとしてもダメで、正しい稽古に数をかけると、自然にそうなるんだね。 だから、やっぱり練習ですよ。これは理論じゃダメだ。どんなに話を聞いてもダメだ。

だけど、肩の力を抜くということは、なかなか道場の中の稽古だけじゃ出来ないね。 何か、命懸けの場にぶつかると抜けるな。そういう所で、緊張しちゃいけないということが分かるとね。

僕は戦争でそれを覚えた。37から39まで行っておって、「緊張したらダメだ」とね。 そうすると、不思議だね。法定の形と同じになる。腰から下に力が入ってくる。「ズーッ」と。 余裕が出るな。応じられるようになる。

だから、法定の形をやっておくと、何かの時に役に立つ。大事な時に「ここだな」と思えばいい。また、そういうことで形というものが身に付くね。 法定はいいよ。法定の努力呼吸が身に付くとね。どんな場合でも、足が板に着くわけだ。 それから、座禅がいい。座禅と法定の形。

昭和57年4月18日 宏道会剣道場述

(『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より)


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