小川忠太郎先生剣道話(48)~山岡鉄舟の余裕~
…(前略)… 私は、生死の問題は20代に解決しておかないといけないと思う。 これが大事だよ。 これを無視してほかのことをやっていても駄目だ。 山岡先生は、21歳の時言ってる。 「死ぬぐらいのことは、腹を決めれば何でもない。そんなことをしないで、いつでも従容として死ねるようになりたい。」 ねっ。度胸なんか決めない。
「それが修行だ」と言ってる。
21の時にそう言ってる。 剣道でも浅利先生という良い先生に付いているし、禅でも滴水に付いているからね、ああいうふうになる。 21歳ぐらいでそういうふうだから、偉くなる。 ただ稽古ばかりやっていても駄目だ。 20代は大事ですよ。 もう一つは「行」だ。 だから、禅はいいんだ。 坐るという「行」があるから。 禅は大したもんだね。 山岡先生も坐ったまま死んでるな。 「皆さん御機嫌よう、一足お先に」と言って死んでる。 大勢集めてな。 死ぬ前でも景気がいいな。 死ぬ2、3日前、「円朝、みんながこんなに大勢見えているから、ひとつ落語をやって聞かせろ」と。 それで、円朝仕方なしに落語をやってね。 そういう晩年は余裕がある。 それは、若い時の心がけだ。 歳を取ってから考えても間に合わない。 また、考えもしないよ。 社会の生活が忙しくって、夜はくたびれちゃうから寝ちゃう。 仕事仕事で、考える暇なんかありはしない。 そういう大事なことを持ち越して、それにぶつかるまで知らない。 それで慌てる人もあるんだけれど。 誰だってぶつかる問題だからね。 その解決が禅であり剣道なんだ。 だから「当てっこ稽古」でなくね、本当の古流から来た剣道をする。 古流の剣道の中にはそれがある。 「切り落とし」はそれだ。 だから、剣道は体育じゃないです。 それで、剣道で苦しいところに耐えると、気力体力が盛んになる。 これがものを言う。 それには、20代だ。 歳を取ってから鍛えると体を壊しちゃう。 20代は、割合に気がつかない。 就職のことと結婚で追われちゃう。 職があって、結婚でもすれば一安心で、すぐ5年、10年経っちゃう。 それで子供でも出来ると忙しくなってね。 そうすると、毎日毎日「忙しい、忙しい」になっちゃう。 どんなものにも余裕を持って生活するためには、20代に本当の修行をすることが大切だ。 昭和56年11月 (『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より) タイトル、構成…栗山令道
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