小川忠太郎先生剣道話(2)~剣道と禅が一生涯の基礎になっている(勝海舟)~
勝海舟(幕臣。政治家。山岡鉄舟、高橋泥舟とともに「幕末三舟」と称せられる)は『氷川清話』で、17歳から20歳までやった剣道と禅が一生涯の基礎になってると言っている。
島田虎之助(幕末の剣術家。直心影流の達人)が、いまやっている剣道は駄目だから本当の剣道をやれと(勝に)言った。
寒稽古期間中1ヵ月、氷川神社で毎晩木刀を振れと言った。それを30日間丸4年やったっていうんだ。
他の人は、たまについてきても、一晩でも続いた者はいないというんだ。農家を起こして泊まっちゃう。昼寝も何もしなかったように書いてあるよ。
私も23歳の時に、そんなに辛いものかと思って松陰神社でやってみた。晩から朝まで。
とにかく、朝の2時頃になるともの凄いね。腹が減っちゃうんですよ。
1月の戸外だから風がピューピュー来る。稽古着と袴だけだから、500本を一回にしたんだが、休んでいられないんだよ。
休んでいると、腹が減ってるところに寒さが来る。それだから続けるわけだね。
国士舘の稽古が(朝)5時半だから、4時半頃までやった。
とにかくこれで死ぬかと思うね。
その時一つ覚えた。体が冷たくなっても、下腹が少し温かいな。人間はこれを感じているうちは死なないと思ったね。
それで、帰ったらまず第一に寄宿舎の食堂に入った。冷や飯をたべてね、それから稽古して、朝稽古の後水をかぶった。
井戸水だから普段は温かいが、その時はもう感じないね。こうかぶると、布か板で背中を「バタッ」と叩かれた感じ。
それから授業に出てみた。そこまで来ると居眠りじゃないよ。疲労が極致に来ると、横に倒れちゃうな。
勝海舟は何でもないように言っているが、それには用心をしている。
何かというと、羽織か何か持って行ってる。休んでいる時はそれを着ている。
それがあれば、うんと違う。
それから、おにぎりか何か持って行ってる。夜中に食べてるよ。私がやって続かないんだから、30日間昼間も寝ないなんてことは出来るはずはない。昼間寝ていますよ。
やったということは偉いけどな。そういう段取りをしている。
そういうことでね、やるんなら用心してな。お釈迦様が座布団で牛乳を飲んで座ったようにね。ただ頑張るのが目的じゃない。
寒いって感じはないですよ。このままいったら死んじゃう、そういう感じになってくる。
しかし、それがためになってね。戦地で私が死ななかったのは、それだね。
いっぱい着ているんだもの。それで寝られるんだもの。そういう自信があると違うね。
昭和54年10月
(『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より)
令道 記
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