みんな切り返しが良くなってきた。
切り返しの形が出来ても、「気剣体の一致」が出来なければいけない。それはどういう事かというと、呼吸が下がっていなければいけない。
初心の人は胸で呼吸する。それが腹へ下がる。しまいには踵(かかと)まで下がる。そこまで行けば満点だ。
切り返しでこれを練る。
これが本当に出来れば、剣道の大部分は終わり。あとは、形(カタ)で理合(りあい)をやって行けばいい。
切り返しで「気剣体の一致」を練る。
(中略)
警視庁で一番強いのは、持田先生だ。攻めが強くてどうにもならない。
……
どうしても迷わされるから、(ある先生が)「目をつぶってみたらいいだろう」と目をつぶってやってみたそうだ。
そうしたら、先生は打ってこない。
だから、剣道というものは、迷うという事がいけないんだな。
しかし、目ばかりつぶっているわけにはいかない。目なんかつぶる必要はない。
法定の努力呼吸をして、「ここ(先生下腹に手を当てられる)に収まればいい。
目で見ないで、臍下丹田で見たらいい。腹で「ズーッ」と見る。
その為には、(直心影流法定の形の)努力呼吸を数をかけてやればいい。そうなると開ける。それを知らないから、目をつぶったりする。
耳で聞かないで下腹で聞く。法定の努力呼吸は、えらいものですよ。ほかの形には、あんまりないね。
無刀流ではやっていますね。さすが山岡先生だ。「ハーッ、ンーッ」とね。これが本筋へ入る道なんだ。
誰でも出来る。中学生だって出来る。
その効果は、その人の熱心度の度合いですよ。
いいかげんにやっちゃ効果はないです。数息観と同じだ。居眠りしながら、いいかげんにやっても駄目だ。一生懸命やれば、自然に行く。
そのいい例が、白井亨。稽古を止めちゃって、苦し紛れに『夜船閑話』にぶつかって、それで2ヶ月真剣にやって、開けた。
この道場には、そういうものがあるんだから、小学生でも努力呼吸をやれば大したものだ。これは一生身に付く。
歳を取れば取るほど熟してきますからね。坐禅と同じだ。
最後のどうしても切れない雑念は、「一息裁断」。一息でいい。これで切れない雑念はない。努力呼吸はそこまで行かないといけない。
そういうものだからな。目なんかつぶらなくてもいいんだ。正確な方法でね、うんと一生懸命やる。
人間は三度三度食事をする要求がある。呼吸はいいかげんにしていても間に合う。しかし、呼吸は一番大事なんだ。これは精神的な食糧だよ。「ズーッ」と。これを毎日養ってやらないとね。
法定の形は、そういうものだ。私がこの歳(81歳)で稽古が出来るのは、法定の形のお陰だ。これに出会ったのは28の時だ。中学生の頃に出会っておれば、なお良かった。
歳を取れば取るほど熟してくる。そういうものだから、方向を間違えないように。
目なんかつぶったって駄目だ。
昭和57年1月31日
宏道会剣道場述
(『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より)
Comments