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目で見ないで、腹で見る ~小川忠太郎先生剣道話(58)~

みんな切り返しが良くなってきた。


切り返しの形が出来ても、「気剣体の一致」が出来なければいけない。それはどういう事かというと、呼吸が下がっていなければいけない。


初心の人は胸で呼吸する。それが腹へ下がる。しまいには踵(かかと)まで下がる。そこまで行けば満点だ。

切り返しでこれを練る。

これが本当に出来れば、剣道の大部分は終わり。あとは、形(カタ)で理合(りあい)をやって行けばいい。

切り返しで「気剣体の一致」を練る。


(中略)


警視庁で一番強いのは、持田先生だ。攻めが強くてどうにもならない。

……

どうしても迷わされるから、(ある先生が)「目をつぶってみたらいいだろう」と目をつぶってやってみたそうだ。

そうしたら、先生は打ってこない。

だから、剣道というものは、迷うという事がいけないんだな。


しかし、目ばかりつぶっているわけにはいかない。目なんかつぶる必要はない。

法定の努力呼吸をして、「ここ(先生下腹に手を当てられる)に収まればいい。


目で見ないで、臍下丹田で見たらいい。腹で「ズーッ」と見る。


その為には、(直心影流法定の形の)努力呼吸を数をかけてやればいい。そうなると開ける。それを知らないから、目をつぶったりする。


耳で聞かないで下腹で聞く。法定の努力呼吸は、えらいものですよ。ほかの形には、あんまりないね。


無刀流ではやっていますね。さすが山岡先生だ。「ハーッ、ンーッ」とね。これが本筋へ入る道なんだ。

誰でも出来る。中学生だって出来る。

その効果は、その人の熱心度の度合いですよ。


いいかげんにやっちゃ効果はないです。数息観と同じだ。居眠りしながら、いいかげんにやっても駄目だ。一生懸命やれば、自然に行く。


そのいい例が、白井亨。稽古を止めちゃって、苦し紛れに『夜船閑話』にぶつかって、それで2ヶ月真剣にやって、開けた。


この道場には、そういうものがあるんだから、小学生でも努力呼吸をやれば大したものだ。これは一生身に付く。


歳を取れば取るほど熟してきますからね。坐禅と同じだ。

最後のどうしても切れない雑念は、「一息裁断」。一息でいい。これで切れない雑念はない。努力呼吸はそこまで行かないといけない。


そういうものだからな。目なんかつぶらなくてもいいんだ。正確な方法でね、うんと一生懸命やる。


人間は三度三度食事をする要求がある。呼吸はいいかげんにしていても間に合う。しかし、呼吸は一番大事なんだ。これは精神的な食糧だよ。「ズーッ」と。これを毎日養ってやらないとね。


法定の形は、そういうものだ。私がこの歳(81歳)で稽古が出来るのは、法定の形のお陰だ。これに出会ったのは28の時だ。中学生の頃に出会っておれば、なお良かった。


歳を取れば取るほど熟してくる。そういうものだから、方向を間違えないように。

目なんかつぶったって駄目だ。



昭和57年1月31日

宏道会剣道場述

(『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より)


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