小川忠太郎先生剣道話(39)~続「カマキリの精神、ガマの修行」~
その話で思い出したんだが、剣道で高野茂義先生がおる。この先生はいい先生だったなぁ。 子供のとき、7つか8つのとき、川っぷちでね、ひき蛙と蜂が喧嘩しているのを見てね。蜂は「ブンブン」やってな。そのときひき蛙は、こうやってね、一歩も引かないんだってよ。来ると、蜂を飲んじゃうんだって。 それを見て感じたって言うんだ。引いたら駄目だということを教わったって言うんだね。 それで、剣道で絶対に引かない。 7つか8つくらいでも悟れるんだな。そういうのを見て。 教わらなくとも、自然界にしょっちゅうあるんだよ。「ここだな」と思ってな。 いくら「ワンワン、ワンワン」やっても、「ジッ」と。(前回参照) この精神は大事だよな。 世の中で、一人善いことをやっても、人に「ワンワン、ワンワン」やられると、参っちゃうものね。妥協だものな。 剣道はそれだ。当てっこじゃない。どんな最悪の場合でも、自分の心が乱れないということ。だから為になる。 社会に出て地位に就けば、そんなことばかりだもの。 善いことをやると、人が邪魔をするしね。 こちらがちゃんとして、いつでも判断を間違わない状態でいれば、なんでもないんだよ。 普通は、蜂が「ワーワー、ワーワー」来れば、気にするんだな。 「ガマ蛙」精神はいいよ。「ガマ」の修行をしないと。「ガマ」。 誰でも、そういうものを持っているんだからな。 稽古で、苦しいところで「俺はやっぱり駄目だな」というのは、やっぱりカマキリの精神がないということだね。 たとえ犬でも自分に向かって来れば、「なんだ」と行く。苦しいときにそれがでなくちゃいけない。最悪のときに「なにくそ」と。 そこから技が出るんだから。 昭和55年7月 (『小川忠太郎先生剣道話 第一巻』より) タイトル、構成、()内…栗山令道
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